マンションの規約原本
マンション管理士事務所 柳澤オフィス |
1.規約原本を作成する根拠
「規約原本」とは、規約がないため新設した規約、または規約変更の元になる規約のことです。 この「規約原本」は、国土交通省が作成したマンション標準管理規約第72条第1項に定められています。
(規約原本等) 第72条第1項 この規約を証するため、区分所有者全員が記名押印した規約を1通作成し、 これを規約原本とする。 ※ 電磁的方法が利用可能な場合、 この規約を証するため、区分所有者全員が書面に記名押印又は 電磁的記録に電子署名した規約を1通作成し、これを規約原本とする、となっています。 (※上記の赤で示した定めを忘れないでください!)
また、上記の定めに対応したマンション標準管理規約第72条関係コメントは、次の通りです。 「区分所有者全員が記名押印した規約がない場合には、 分譲時の規約案及び分譲時の区分所有者全員の規約案に対する 同意を証する書面又は初めて規約を設定した際の総会の議事録が、 規約原本の機能を果たすこととなる。」
以上が、国土交通省により示されたマンションの「規約原本の作成方法」です。
この作成方法に基づき、次の規約原本作成方法を説明しました。 (1)マンション分譲で、合意書へ全員の記名押印をする方法 (2)マンション分譲時に1住戸ごとに承認書を作成する方法 (3)無かったマンションの規約を総会で決議し、新設する方法 (4)マンションで規約の変更を決議する方法
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2.1枚の紙に区分所有法全員の記名押印をする方法
この「集会を開かずに決議する方法」は、区分所有法第45条第2項に根拠を置きます。 これは、1枚の紙に区分所有者全員の氏名をプリントし、押印する方法で全員の合意を証する方法です。 「この法律又は規約により集会において決議すべきものとされた事項については、 区分所有者全員の書面又は電磁的方法による合意があつたときは、 書面又は電磁的方法による決議があつたものとみなす。」となっています。 下記②の区分所有者全員の合意があれば、「集会を開かずに」①+②を規約原本とすることができます。 ①規約 + ② 合意書(区分所有者全員) = ①+②が規約原本 なお、記名とは、氏名をプリントしたもの、又はゴム印などで氏名を記す方法です。
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3.規約の承認書(承諾書)に署名押印する方法
この「集会を開かずに決議する方法」の根拠は、標準規約の第72条コメントです。
「分譲時の規約案及び分譲時の区分所有者全員の規約案に対する 同意を証する書面又は初めて規約を設定した際の総会の議事録が、 規約原本の機能を果たすこととなる。」と定めている部分です。 この規約が「原始規約」であり、自筆の氏名と押印により同意を証する方法です。
上記の「同意を証する書面」がマンションの1住戸ごとに作成する「規約の承認書」となります。
①規約 + ③ 1ページ追加 (承認書) 区分所有者ごとに作成 = ①+③ が規約原本 ※ ①+③をセットとし、売主に提出し、1部を住戸ごとに保管します。
なお、署名とは、氏名を自筆・サインする方法で氏名を記す方法です。 |
4.総会の特別決議により規約を新設する方法
この「決議による方法」の手続きの根拠は、上記3.の方法と同じ第72条関係コメントです。 「区分所有者全員が記名押印した規約がない場合には、 分譲時の規約案及び分譲時の区分所有者全員の規約案に対する 同意を証する書面又は初めて規約を設定した際の総会の議事録が、 規約原本の機能を果たすこととなる。」となっています。 規約の制定であるので、総会の特別決議が必要です。
一方、コピーがある場合、その規約を総会の普通決議で規約とすることができます。 理由は、規約を定めることではないからであり、普通決議で足りるためです。 なお、「京都地裁/ 平成九年(ワ)第1044号」の判例より、つぎのことが分かります。 『原始規約が行方不明でも、長年異議なく規約通りに管理されてきたなら、 黙示的に規約が成立したとみなす。』
① 規約 + ④ 議事録 = ①+④ は、規約原本
なお、特別決議によりマンションの住民の権利に「特別の影響」があり、 その影響が通常の人に対する「受忍限度」を越える場合、当人の「承諾」を得なければなりません。 また、集会を招集するとき、「招集の通知」し、「議題の要領」の説明がなくてはなりません。 これがない場合、訴えられたことがありました。
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5.総会の特別決議による規約の変更方法
この「決議による方法」の手続きの根拠は、マンション標準管理規約第72条第3項の次の定めです。 「規約が規約原本の内容から総会決議により変更されているときは、 理事長は、1通の書面に、現に有効な規約の内容と、 その内容が規約原本及び規約変更を決議した総会の議事録の内容と相違ないことを記載し、 署名押印した上で、この書面を保管する。」となっています。 また、同法第72条第4項の定めにより、理事長が規約を閲覧させる際、下記の①+④+⑤を使用します。 ① 規約 + ④ 議事録 + ⑤ 理事長の1通の書面「管理規約確認書」 (現に有効な規約を含みます。) ① は、規約原本(第72条1項より) 「管理規約確認書」
上記の内容は、規約の変更があるごとに、④´+⑤´が追加されます。
① 規約 + ④´ 議事録 + ⑤´ 理事長の1通の書面「管理規約確認書」 (現に有効な規約を含みます。) ① は、規約原本(第72条1項より) 「管理規約確認書」
上記の①は、同一の規約原本です。(第72条1項より区分所有者の全員の記名押印があるからです。) ④´に⑤´が決議の後追加され、⑤´の中に現に有効な規約が含まれます。
理事長が任期満了で交代する際、引継ぎが完了していない場合、①の規約原本が紛失することがあります。 その場合、4.の「新規に規約を作成する方法」で現に有効な規約を規約原本とみなすことができます。
一方、規約改訂時の議事録が行方不明となっていることがあります。 (※ 議事録の保管責任者だった「理事長」に話を聞き、原因を究明すべきです。) この議事録がない場合、区分所有法には「罰則」の定めがあるのみです。 民法の場合、かかわる条文がないとき、私的自治の原則により当事者間で契約を作成できます。 マンションの場合、最高の決議機関である総会において、書かれた原則がないケースを審議・決議できます。
分譲マンションで原則(書かれた法律・ルール)がないケースでは、次の手続きで解決できます。 (1)まず、分譲マンションの総会で「規約原本」と「現に有効な規約」との差分を生じさせた総会の 議事録がないことを総会出席者に周知させます。 ※ 事前に説明会を開き質問を受け付けるべきです。 (2)次に、当期の総会でその差分に対し規約変更・廃止を決議します。(特別決議) この決議の経過は、当期の議事録に記録されます。 理事長の意見が入る余地はありません。 (3)理事長が記載する「書面」(管理規約確認書)への文面は、第72条第3項の内容となります。 (4)この特別決議の場合、権利に「特別の影響」がある場合の「承諾」が必要です。 (※ まれに行方不明の議事録に「特別の影響」があったことが書かれているかも知れないからです。)
とはいえ、規約原本が古く判読不可能となり、規約の目的を果たさないとき、区分所有法第31条の定めに従い、 特別決議により規約を設定・変更・廃止をすることができます。 新規に規約を印刷して作成した場合など、規約の最後のページに区分所有法第31条を引用し、署名・押印し、 総会で承認を得ることにより、規約を原本とすることもできます。 規約を改正した〇〇期において、 規約で「△△期作成した規約原本を廃止し、〇〇期定めた管理規約確認書を規約原本と設定する」と決議します。
なお、この特別決議の場合も、権利に「特別の影響」がある場合の「承諾」が必要です。 また、総会の招集のとき、「招集通知」を配布し、「議題の要領」を知らせる必要があります。
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