マンションの規約違反
マンション管理士事務所 柳澤オフィス |
1.マンションの規約違反の実情
代表的な規約違反は、「管理費等の滞納」と「ペット飼育問題」および「駐車場問題」です。 国交省の調査によると、管理費等の滞納は、ほとんどのマンションで発生しています。 また、ペット飼育問題は、マンションの規約で禁止され、広報でお知らせをしても発生します。 さらに、駐車違反や不法駐車は、駐車スペースの余裕の無いマンションで多発しています。
この3つは、規約を守ろうとしても守れないタイプの「規約違反」となるケースです。 この種の規約違反は、単に警告しただけでは、なくなりません。
一方、次の場合も規約違反が発生します。 ① 規約を知らなかった。 この場合、住民と管理組合の双方で生じています。 総会の招集方法、決議の仕方などに規約違反が生じています。 ② 規約の意味を誤って理解していた。 この場合は、警告すれば、その違反は容易になくなると思われます。
総会で規約違反の決議がなされた場合、理事長が訴えられることがあります。 「規約変更」記事で説明しましたように、主に次の区分所有法に従う規約事項です。
1)特別決議(区分所有法31条1項)、書面又は電磁的方法による決議(区分所有法45条) 規約の変更は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数決議が必要です。 規約でこの定数について別段の定めをすることができず、この規定どおりに定めます。
これを「強行規定」といいます。
この特別決議が必要な議題は、次の5個です。 ①規約変更・廃止、②義務違反者に対する措置、③共用部分・敷地の変更、 ④管理組合の法人化とその解散、⑤共用部分の復旧 なお、建替え決議は、各五分の四以上の多数決議が必要です。
また、集会を開かないで、決議することもできます。 区分所有者全員の書面又は電磁的な方法による合意があったときです。
2)特別の影響を及ぼすときの承諾(区分所有法31条1項) 規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、 その承諾を得なければなりません(強行規定)。
3)招集の通知(区分所有法35条1項) 集会の通知は、各区分所有者に発しなければなりません。その期間は、規約で伸縮できます。
4)議案の要領をも通知(区分所有法35条5項) 規約変更の議決事項は、その議案の要領をも通知しなければなりません(強行規定)。 この定めの趣旨は、総会に直接出席できない組合員に不公平を生じさせないことです。
5)決議事項の制限(区分所有法37条1項) 規約変更は、予め通知した事項についてのみ決議できます。 規約で別段の定めはできません(強行規定)。 この定めの趣旨も、総会に直接出席できない組合員に不公平を生じさせないことです。
以上の規約に違反した場合、多数の横暴が行われたとして不公平を感じた住民が訴えます。 では、規約を守ることが困難となる「規約違反」には、どのように対応できるのでしょうか?
|
2.一般的な規約違反への対応
(1)先ず規約違反の情報を収集します。
1) 住民へのアンケートを行い、被害を受けた違反などについて調査します。 2) 必要に応じて、規約違反により困っていることを説明会で説明します。 3) 広報、管理組合ニュース、掲示板を活用し、規約の理解を深めてもらいます。 4) 管理費等の滞納の場合、当事者の登記の記録を入手します。 すでに差し押さえられている場合、訴えを起こしても勝ち目がないからです。 また、専有部分の競売がきまっている場合、その購入者から滞納金を徴収できます。 裁判費用をかけずに解決できます。
5) ペット問題の場合、住民に迷惑となっているかどうか、情報を収集します。 裁判の場合、「共同の利益」に反する、として判断されることが多いためです。 多くは、規約変更により、迷惑とならないように飼育する方法で解決できます。
(2)理事会の決議により警告・訴訟をする場合 (マンション標準管理規約67条による対応)
国土交通省で作成したマンション標準管理規約の第8章「雑則」の第67条につぎの定めがあります。 ポイントは、理事長が理事会の承認を経て、警告、訴訟その他の法的措置をとることができることです。
規約が上記のマンション標準管理規約を取り入れていない場合、「規約変更」が必要です。
(理事長の勧告及び指示等) 第67条 区分所有者若しくはその同居人又は専有部分の貸与を受けた者若しくは その同居人(以下「区分所有者等」という。)が、法令、規約又は使用細則等に違反したとき、 又は対象物件内における共同生活の秩序を乱す行為を行ったときは、 理事長は、理事会の決議を経てその区分所有者等に対し、 その是正等のため必要な勧告又は指示若しくは警告を行うことができる。 2 区分所有者は、その同居人又はその所有する専有部分の貸与を受けた者 若しくはその同居人が前項の行為を行った場合には、 その是正等のため必要な措置を講じなければならない。 3 区分所有者等がこの規約若しくは使用細則等に違反したとき、 又は区分所有者等若しくは区分所有者等以外の第三者が敷地及び共用部分等において 不法行為を行ったときは、理事長は、理事会の決議を経て、次の措置を講ずることができる。 一 行為の差止め、排除又は原状回復のための必要な措置の請求に関し、 管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行すること 二 敷地及び共用部分等について生じた損害賠償金又は不当利得による返還金の請求又は受領に関し、 区分所有者のために、訴訟において原告又は被告となること、その他法的措置をとること 4 前項の訴えを提起する場合、理事長は、請求の相手方に対し、違約金としての弁護士費用 及び差止め等の諸費用を請求することができる。 5 前項に基づき請求した弁護士費用及び差止め等の諸費用に相当する収納金は、 第27条に定める費用に充当する。 6 理事長は、第3項の規定に基づき、区分所有者のために、原告又は被告となったときは、 遅滞なく、区分所有者にその旨を通知しなければならない。 この場合には、第43条第2項及び第3項の規定を準用する。
なお、上記で説明しましたように、規約にこの定めがない場合、「規約の変更」が必要です。
|
3.管理費等の滞納への対応
前半で説明しましたように、滞納者の登記の記録を先ず入手します。 登記記録を確認し、すでに差し押さえられている場合、訴えを起こしても勝ち目がないからです。 また、競売がきまっている場合、その購入者(競落人)から滞納金を徴収できます。
※ 区分所有法第8条(特定承継人の責任)により債務が承継されるため、滞納金が徴収できます。 したがって、裁判費用をかけずに解決でる場合もあります。
なお、5年の短期消滅時効を詳しく知っている上で滞納している場合、訴訟を提起することで その時効を停止できます。 したがって、欧米のように訴訟を日常的に行うこともよいかも知れません。
|
4.ペット飼育問題への対応
裁判では、ペット飼育禁止の規約違反のみで訴訟を提起しても勝てないかもしれません。 勝訴したケースは、「共同の利益」に反する、とマンションの住民が感じている場合です。 したがって、規約を変更し、ペット飼育可能とし、飼育マナーを守るかどうか、 問題の内容を変えることで解決するマンションが多くなっています。 詳細は、「ペット飼育問題」ページを参照願います。
|
5.駐車場問題への基本的な対応
マンションで発生する駐車場問題は、主に駐車違反、違法駐車です。 この問題の原因は、主にマンションの敷地にスペースの余裕がないことです。 また、駐車場の利用車へのイタズラや盗難も発生しています。
したがって、解決するため、主に次の対策を計画します。
(1)敷地内の駐車場の増設 1)空き地、未利用地を活用します。 2)緑地をカットします。 3)路上駐車(敷地の通路を区画し、駐車場とするケース)を実施します。 4)二層式駐車場の設置などによりスペースを確保します。
(2)外部駐車場の借り上げ 1)駐車場契約は、住民の個別契約、管理組合で管理のみ行う方法があります。 2)契約を一括して管理組合で行う方法もあり、この方法が主流となっています。
(3)管理組合の日常的な活動 1)広報、掲示板、管理組合のニュースで不法駐車を知らせます。 2)照明を設置し、パトロールを実施することで、監視している状況をアピールします。 3)警告票をウインドワイパーにはさみ警告します。 4)来客用の臨時駐車場の許可証を発行します。 5)公道に面した常習的な不法駐車は、警察に通報します。 6)車止め、ゼブラゾーンなどを設置します。 7)通路を花壇などを置き狭くし、駐車できなくする方法もあります。
(4)マンションに組織を作る方法 1)マイカークラブを作り成功したマンションがあります。 2)駐車場組合を設立するケースもありました。 3)駐車場特別委員会を設置し、長期間にわたり問題に対処することも必要です。
なお、問題解決に専門的な知識が必要になる場合があります。 その場合、マンション管理士などに相談すると、早期解決が期待できます。 |