修繕計画 進め方

大規模修繕工事の進め方


「勉強会」の主なテーマを「分かる」ことを目標に説明しました。
ここでは、次の11項目を説明しました。
1.計画の確認 
2.資金の確認
3.計画の見直し
4.改修基本計画
5.実施設計
6.施工業者選定
7.総会決議
8.工事の説明会
9.工事
10.引渡し
11.アフター点検

   マンション管理士事務所 柳澤オフィス

1.計画の確認


 鉄筋コンクリートのマンションは、風雨や直射日光にさらされると、その部分が「劣化」していきます。
これが、「物理的劣化」です。
屋上や外壁の劣化によりひび割れが生じた場合、専有部分へ雨漏れが生じます。
また、水漏れなどは、躯体(建物の柱やはり)にも重大な影響を与えます。
したがって、外壁塗装と防水工事が非常に重要であることが「分かり」ます。
 ※ 図面は、竣工図などの一次情報がベターです。パンフレットなどの2次情報は、誤りが含まれ・不正確です。
  竣工図より、配管ルートやTV配線・ブースターの正確な位置が分かります。

マンションでは、「どの部位」・「いつ頃」・「どのくらいのコスト」の項目で長期修繕計画を作成します。
この長期修繕計画は、新築竣工時に作成するのがベターです。
しかし、多くのマンションでは、大規模修繕工事の実施に合わせて見直されています。
さらに、管理組合で1年に1回以上、建物の簡易診断を行うべき、といわれています。

 国土交通省は、平成20年6月に「長期修繕計画作成ガイドライン及びコメント」を発表しました。
このガイドラインには、計画すべき19種類の工事項目が明確にされています。

 ポイントは、次のとおりです。
1)比較検討を容易にするため、長期修繕計画の「標準的な様式」を作成しました。
 国土交通省の平成20年の調査結果では、全国のマンションの約90%が計画書を作成済みです。
  ※ 長期修繕計画書がない場合、勉強会では、Excelで作成したサンプルを発表します。
2)19項目の標準的な「推定修繕工事項目」を示しました。
3)修繕積立金の将来的な引き上げ幅を少なくするため、「均等積立方式」を基本としています。

 一方、マンション標準管理規約の長期修繕計画は、次のようにコメントされています。

1)長期修繕計画の計画時期は、25年程度以上(新築時30年)
2)長期修繕計画の対象工事として、外壁補修、屋上防水、給排水管取替え、
    窓および玄関扉等の開口部の改良など、また、修繕周期や工事金額の明確化
3)長期修繕計画における全体の工事金額
4)長期修繕計画の5年程度の見直し

 この長期修繕計画書で大規模修繕工事は、平均して12年周期で計画されています。
したがって、築7~年頃から、マンションに住む建築士などを中心に修繕専門委員会の設立に着手します。
民法の瑕疵担保責任、品確法が、引渡しから10年間の責任期間のため、早めに着手するからです。

 管理組合の役員は、主に次の行動を開始します。
1)理事会で長期修繕計画書を精査し、工事実施の約1年前頃から工事準備活動をスタートさせます。
   修繕履歴書や室内トラブルの管理・点検報告書から修繕すべき部位を知ることができます。
2)体制を作るため、「修繕専門委員募集のお知らせ」を作成し、建築の専門家や主婦などを募集します。
   この委員会は、理事会の諮問機関としてのみ機能し、権限は理事会より強くありません。
3)マンション全体の「劣化」の状況を役員全員で目視確認します。

   1)、2)、3)の計画、実行、まとめに3~5ヶ月前後かかります。
   長期修繕計画書がなく、修繕専門委員会に建築士がいない場合があるからです。
   後半に説明した作業と並行して進めると効率的です。

 次の図で、代表的な大規模修繕工事の着工時期と工事期間を示しました。
このグラフの場合、年明けに着工し、正月・真冬(5℃以下)とお盆・真夏や台風(湿度80%以上)を避けています。
雨の降る日は、湿度が部分的に高くなる場合があり、工事ができないからです。
なお、8月から12月にかけ、工期2~5ヶ月間でもなされています。

工事期間

2.資金の確認

 
 マンションの維持・保全には資金の2区分があり、以下のとおりです。
大規模修繕を理解できる範囲で説明しました。
1)管理費: 
 日常の修繕として、ドアなどの器具等の破損修理や給水ポンプのメンテナンスなどです。
2)修繕積立金
 ①計画修繕: 修繕計画書に明記した、鉄部塗装・給排水設備などの一定期間経過の計画修繕
 ②特別修繕: 災害による被害の復旧、耐震補強など
 ③改良: バリアフリー、エレベータ新設などの改良
 ④大規模修繕: 上記に加え、屋上防水・外壁など一時期にまとめて実施する修繕
 さらに、調査診断、実施設計、工事監理、長期修繕計画の見直し、などのコンサルタント費用です。
なお、工事の変更や劣化の数量精算により、予備費が必要です。
この予備費は、工事費の5%~10%程度ともいわれています。

  このように、長期修繕計画を実行に移すには、資金の準備が不可欠です。
上記のように、管理組合は、修繕積立金を管理費と別会計として積み立てます。
この会計は、特別会計いわれ、管理費と区分して管理することが法律で定められています。
積み立てる算定根拠となるのが、長期修繕計画です。

 次の図は、既に説明しました国土交通省の作成したガイドラインの一部です。
グラフから修繕積立金、推定修繕工事費を比較することができます。
修繕工事計画書

多くの分譲マンションは、デベロッパーの販売目的のため、低い修繕積立金に設定されています。
したがって、当初の金額では、いずれ不足が発生してしまいます。
このため、多くの管理組合は、修繕計画の段階で初めて修繕積立金の不足に気がつきます。
既に説明しましたように、(財)建設物価調査会の調査結果は、次のとおりです。
大規模修繕工事の相場は、平成20年度の調査結果で 40万円/戸~80万円/戸 となっていました。
(※ 499件のマンションの回答から集計・分析した結果です。)

 繰り返し、国土交通省の指導する資料を紹介しました。
平成16年、標準管理規約改定により、修繕計画期間が25年に延長されました(新築時30年)。
また、上図のように、平成20年に長期修繕計画標準様式で修繕項目を明確にし、分かりやすくなりました。

 一般的に、修繕積立金は、大規模修繕工事の費用と同額になるよう徴収しています。
2回目以降の大規模修繕工事は、1回目より修繕部位が増え、費用が増えるのが普通です。
住民の高齢化とマンションの老朽化という「2重の老い」に直面し、維持するコストは、さらに増えています。
積立金の不足問題の先送りでは、安心してマンションで暮らすことはできません。

 修繕積立金の資金不足が多くのマンションで生じています。
この場合、管理組合が不足額を補う役割を担うことになります。
建物のメンテナンスが不十分の場合、安心して快適にマンションで暮らすことはできないからです。
手遅れになる前に、早期に対応することが大切です。

 では、資金確保策としてどのような方法があるのでしょうか?

 最初に、必要な資金の額を減らすことを考えなければなりません。
支払う費用のことばかりを考えず、工事費の削減から説明しました。

①不要不急の修繕工事を削除する。
 一般に、大規模修繕工事には、修繕に関連する他の部位が集約されます。
足場を使用する工事だけでなく、改良工事などもその工事と一緒に計画されるからです。
したがって、工事費が高くなります。
主要な部位の工事に的を絞ると、工事費を削減することができます。

 なお、無足場ブランコ工法があり、足場代金の60%を削減できる、といわれています。
平均6万円/戸の削減ができ、100戸のマンションの場合、約600万円の削減となります。

②工事の修繕周期を見直す。
 詳細な劣化診断を行い、12年周期を見直します。
12年周期で大規模修繕を計画するのはマンションのみ、といわれるからです。
材料の耐用年数により修繕周期が決まります。
しかし、マンションの環境や維持管理の状態により、劣化の程度が遅くなる場合があります。
その場合、12年周期を延ばすことができます。

③責任施工方式で発注しない。
 後半で記述しましたように、この1社に丸投げ方式は、検査が不十分で、工事費も高くなります。
手抜き工事をなくすため、競争入札または見積もり合わせを行い、施工と工事監理の分離方式とします。

④管理会社に施工・工事監理を依頼しない。
 管理会社は、最近、修繕工事により売り上げを達成しています。
独立系の管理会社との競争などにより、管理委託費を値下げしなければ契約を継続できないからです。
第三者として設計事務所などが施工監理をする方式が主流となってきました。
また、施工業者が、公募により、競争原理を働かせた競争入札や見積もり合わせで選ばれています。

⑤実施設計者と施工業者の癒着を防止する。
 この癒着により、施工原価に5%~10%の紹介料が上乗せされます。
したがって、業者の選定は、公募と競争入札・見積もり合わせなど、透明性を高める手続きが大切です。

⑥業者の選定は、公募による競争入札・見積もり合わせによる。
 繰り返し説明したこの方法は、競争原理を働かせる基本です。
談合により、工事費は、高値を維持し、安くなりません。
公募の窓口を一つとせず、公平・透明性を実現できる方法がベターです。

⑦工事の時期を春・秋以外に設定する。
 優秀な職人がその時期、仕事がないので、その時期の工事見積りが安くなります。
地域により、気候により、暖冬・少雨の場合があります。
足場がお盆や正月に設置されたままで、不便かも知れません。
しかし、工事期間が2ヶ月など小規模マンションの場合、効果のある方法と思われます。
 なお、塗装工事には、真冬や雨の日を避ける必要があります。

⑧国土交通省の提案するCM方式に類似した方法を採用する。
 CM方式は、専門工事業者レベルまでコスト構成を透明化する方式で、平成14年に策定されました。
建設業界では認知度が高く、発注者のリスクと施工保証に問題がある、といわれています。


 次に実行する資金確保は、主に次の方法で実現されています。
これらの方法は、単独でなく、組み合わせると、短期間に成果を得ることができます。
不足分を算出し、修繕積立金を増額することは、最も一般的な方法です。
12年周期の大規模修繕は、25年以上の計画期間に2回含まれること考え、増額します。
増額方法は、費用を算出した上で、一気に増額するか、段階的に増額するか、いくつかあります。

 注意すべき点は、工事の時点で支払う現金の金額を明確にすることです。
数年後の工事のため、増額することで総額は足りても、今期の修繕費が足りなくなる場合があります。

 大規模修繕費用を支払う方法について、主な方法を説明しました。

 小規模の修繕工事の場合は、請負契約として竣工検査後に工事代金を支払います。
しかし、大規模な修繕工事の場合は、着手時、工程の中間時、完了時に分割して支払うのが一般的です。
この費用の支払い方法や内容は、工事請負契約書の記載事項です。

1)着手金の支払い
 着手金は、主に資材調達などのための費用として使用されます。
工事請負契約締結時に、契約金額の10~30%程度を施工会社へ支払います。
2)中間金の支払い
 工程の中間時に支払う費用を中間金といいます。
工事の進捗状況によって支払われ、契約内容によって支払い時期や金額は違います。
一般的に、契約金額の30%程度を1~2回に分け、施工会社へ支払います。
3)工事完了時の支払い
 竣工検査がすべて終了した段階で、着手金・中間金を差し引いた工事費用の残金を支払います。
 ①契約時工事費の10~30%、②中間時30%を1~2回で、③完成時に残金全額などです。

 長期修繕計画書を見て支配額が不足す場合、主に次の方法が考えられます。

①一時金を徴収
 不足分を算出し、一時金として徴収する方法です。
 少額であれば、問題はありません。
高額になる場合、支払うことが出来ない高齢者や新入居者があり、トラブルになる可能性があります。

②駐車場など、その他専用使用料を増額
 駐車場使用料を適切に増額します。
また、駐輪場やバイク置き場が無料となっている場合、有料化することなどが考えられます。
しかし、この駐車場料金の値上げは、マンションの難問に発展する場合があることとして知られています。
区分所有者の間で不公平が生じるからです。

③駐車場など、その他専用使用料を積立金会計へ振り替え
 駐車場使用料や専用庭・ルーフバルコニーなどの利用料収入は、積立金会計の収入です。
この修繕は、定期的な計画修繕として、長期修繕計画に組み込まれているからです。
実際、国土交通省の「修繕工事項目」のそれぞれ3番、17番で計画修繕の対象になっています。

ところが、管理費を格安に見せるため、管理費会計に充当している場合が多く見られます。
標準管理規約で、日常的な管理費用以外は修繕積立金として積立てることが行政から指導されています。
しかし、そのようにしていない管理組合が多いことが実情です。
 振り替えにより管理費が不足する場合、管理費を値上げするかサービスを削減するなどが要求されます。

④管理費を削減し、削減分を積立金会計へまわす
 管理費を見直し、その削減分を積立金会計にまわすことで補うやり方です。
管理費は、マンション購入当初にデベロッパーが決めています。
管理業者が系列である場合が多く、利益を確保するため、管理費は高めに設定してあります。
単純な値下げ交渉から管理業者のリプレイス、管理形態や内容の見直しなど、方法が考えられています。

⑤金融機関から融資
 住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)には、「マンション共用部分リフォーム融資」という制度があります。
管理組合に対し、1戸あたり150万円×戸数を限度として総工事費用の80%までの融資が受けられます。
ただし、融資は、マンションの管理の状況により決定され、滞納率などに選定条件の基準値があります。
例えば、管理規約に一定の条件が定められ、未収入金の割合が5%未満であることなどです。
また、修繕積立金の額を変更した場合、新しい積立金の3~6ヶ月の徴収実績が求められます。

融資期間は、1年から10年 以内で借り入れ時の金利(2.32%、平成21年5月12日以降)で固定です。
また、担保は不要で、(財)マンション管理センターの保証を付ける必要があります(別途保証料がかかります)。
なお、自治体によっては金利の一部を助成する制度があります

⑥駐車場の増設、屋上広告の設置
 緑地を駐車場に変更する方法も考えられます。
また、屋上に広告塔を設置するなど、収入増の可能性はあります。
収入増の方策は、収益が高額に見込め、設備投資の必要にないものが選択されています。

⑦銀行・その他の機関・企業(管理会社など)から融資を受ける方法もあります。

⑧自主管理へ変更
 自主管理により、管理会社へ支払う定額管理委託費を大幅に削減することができます。
 マンション管理組合の負担は、非常に多くなり、大変かも知れません。
 しかし、マンションがスラム化し、人が住めなくなることを考えると、選択肢の一つとなり得ます。

3.計画の見直し

 
 この作業の目的は、マンション全体の「劣化」を詳細に調査し、修繕・改修費用を計算することです。
また、劣化診断より次のことが明確になります。
1)図面をもとに、修繕工事の範囲を特定することです。
 ※ 竣工図などの一次情報がベターです。パンフレットなどの2次情報は、誤りが含まれ・不正確です。
2)積算するため、図面から、外壁・屋根の面積を計算することや配管ルートなどを知ることです。

図面がない場合、分譲時のパンフレットなどを流用することや、図面を復旧します。
 ※ 既に説明しましたように、竣工図などの一次情報がベターです。
 パンフレットなどの2次情報は、誤りが含まれ・不正確です。
その結果、見ることができない建物の構造や配管ルート、TV配線・ブースターの位置などが分かります。
また、総会の報告書、議事録を見ると、数年分の防水修繕記録を知ることができます。

管理組合の役員は、管理会社の協力を得、主に次の行動をします。
  1)竣工図面類、パンフレットなどの収集
  2)外壁・防水修繕記録、設備点検記録などの収集
  3)総会の報告書、議事録などから「防水修繕工事」の記録を収集
  4)住民を対象とした漏水などのトラブルのアンケート
  5)劣化診断を依頼する専門業者を選択
  6)診断結果の説明会の開催

 アンケートにより、漏水箇所をまとめて発見できるケースがあります。
排水管やTVのケーブルは、マンションの縦方向に設置され、この方向にトラブルが生じます。
103、203、303・・・など上下同じ位置の住居に同一の問題が多く発生することがあります。
管理組合の役員は、主に次の行動をします。
   ①アンケート調査
水漏れ、カビ、ベランダのひび割れ・手すりのサビ、サッシなどのトラブル
   ②アンケートの集計とグラフ化
   ③アンケート結果の報告
     ①~③の計画、実行、まとめに3ヶ月前後かかります。
     他の作業と並行すると効率的に進めることができます。

一方、外壁、鉄骨階段などは、「ひび割れ、サビ」などを見ることにより、「劣化」を知ることができます。
マンションの屋上に行くと、草が生えている場合があります。
管理が行き届かず、屋根の防水が不完全になっている可能性があります。
このような「劣化」を調査することが「劣化診断」です。

なお、上記に加え、詳細の劣化診断を1戸約1万円の予算で専門業者に依頼する場合もでてきます。
この詳細診断を実施するかしないかの判断は、マンションの建物の状況によります。
劣化診断の結果を活用し、修繕の緊急性などの優先順位に基づき、長期修繕計画書の見直しができます。
この見直しは、マンション標準管理規約第48条第5項の「総会決議事項」となっています。
実際の見直しは、管理規約の定めにより、「総会」で承認された後、行うことになります。

では、建物診断業者は、どのように選べば良いのでしょうか?

 信頼できる第三者として、主に次の4者が考えられます。
   1)建築士、2)建築設計事務所、3)民間の診断専門会社、4)NPO法人

 なお、次の業者は、劣化診断を依頼するのは、問題・リスクがある、と考えられています。
1)管理会社やデベロッパー
建物診断で深刻な不具合が見つかった場合、公表しない可能性があります。
マンションのデベロッパーの関連業者は、損失を避けるため、結果を隠し、過小評価するかも知れません。
したがって、この両者に診断を依頼するのは、リスクがあります

 2)修繕を請け負う施工業者
 施工業者と診断業者とが同一の場合、利益相反の行為となります。
高額の工事を請け負いたいので、不具合を過大に評価する可能性があるからです。
したがって、この業者に診断を依頼するのも、リスクがあります

 以上、この段階の結果を「説明会」で報告すると、住民の工事に対する合意形成に大変有効です。
診断結果は、写真などを報告書に載せ、住民への説明会で活用できます。
劣化の状態を共有することにより、マンション全体で工事に向けた認識を深めることができます。
このようにして、大規模修繕工事の部位、範囲を住民が充分理解することができます。

上記で説明しましたように、「劣化」の写真を見ることは、簡単に理解が得られる方法です。
例えば、「ひび割れ」「剥がれ」「タイルの浮き」「水もれの跡」「爆裂」「サビ」「中性化」
「エフロレッセンス」「チョーキング」「シーリングの破断」などの劣化の写真があります。

次の写真は、劣化の一部のサンプルです。
左から順に「エフロレッセンス」「ひび割れ」を示しました。
劣化の程度により、①急がなくて良いか、②修繕すべきか、③改修が必要か、専門業者が評価を下します。

エフロ クラック
 次の図は、建物診断センターが紹介している「診断結果のサンプル」です。
診断結果

4.改修基本計画

 
 「修繕」のみか、「初期性能」以上まで「改修」(「修繕」+「改良」)するのか、計画します。
ここで、改良とは、マンションに付加価値を付けるための工事です。
この改良と修繕とを合わせ、「改修」といいます(「改修」=「修繕」+「改良」)。
ただし、修繕積立金が不足する場合、「改良」工事は、コストダウンのため、計画に加えません。

具体的な改良工事は、主に次の工事です。
1)バリアフリー工事
2)省エネ工事
3)耐震改修工事
4)防犯装置の設置工事など

 この改修基本計画の立案は、専門家に依頼することになっています。
その専門家とは、建築設計事務所などであり、公正に選定する必要があります。
規模の大きいマンションは、一級建築士による設計や工事監理が義務付けされています

まず管理組合は、修繕専門委員会の助けを得て、設計事務所と次のことを検討し、話し合います。
1)撤去と被せる、2)取替えと修繕、3)性能向上と現状維持、4)付加価値と現状維持
この内容は、国土交通省の「修繕周期表」にある「修補」・「改修」と関連しています。
この改修基本計画は、建物の詳細劣化診断の結果から、専門家によって適切に判断されます。

「説明会」で、この改修基本計画に反対する住民が現れる場合があります。
例えば、後半で説明しましたように、次の反対意見です。
1)「お金をかけたくない、工事範囲を広げたくない。」
2)「玄関扉の取替えは必要ない、まだ使える」、などです。

「説明会」の主な目的は、住民すべてに工事の部位や範囲を理解させ、住民の意見を生かすことです。
計画を理解でき、要望が修繕・改修に生かされる場合、修繕工事の完了が住民にとって楽しみとなります。
なお、3)の「計画の見直し」情報もこの段階で合わせて説明できます。

ここで、外部の専門家に改修計画を依頼する方式を説明しました。
1)設計監理方式、2)責任施工方式、3)管理会社主導方式の3種類です。

1)設計監理方式
 設計事務所など、マンションに精通している建築士をコンサルタントとして選ぶ方式です。
管理組合が工事に係わる基本計画と、実施設計および施工業者が係る工事監理を委託する方式です。
この方式は、設計と施工を分離できるため、施工会社の選定を同一基準・公平に行うことができます。
また、施工の計画・工程や実際の作業、仕上がりの客観的な検査も期待できます。

選定では、理事会の役員が業界新聞などに公募を出します。
公正な選定結果により、管理組合にとって、安心して工事を進められるものと考えられます。
しかし、すべてをお任せ状態にするのは他の方式と同様、リスクがあります。
理事会と修繕専門委員会は、計画の内容を国土交通省の指針などに基づき、確認することが大切です。

なお、設計事務所の業務報酬は、国土交通省(2009年告示第15号)で定められています。
その金額は、人件費であり、主に実働時間から計算され、どの設計事務所でもほぼ同じ額になります。
したがって、修繕工事費の3%~5%、5%前後、7%~10%といわれる金額には注意が必要です。

2)責任施工方式
 企画・設計から施工まで一括して業者に発注する方式です。
最初から1社に絞るケースと、何社かの入札や見積り合わせによって業者を決定するケースがあります。
2つの方法は、専門的な第三者による検査がなく、割高となる傾向があります。
また、緊張感がなく、安易な工事に終わるリスクがあります。

3)管理会社主導方式
 管理会社が修繕工事を主導して行う方式です。
大規模修繕工事の準備段階から工事施工に至るまで、すべて、管理会社が主導的な役割を果たします。
管理組合の負担が少なく、日常的に管理・点検している管理会社が進めてくれる方式です。
しかし、管理会社に丸投げとなるため、適正な価格より高くなることが多く見受けられます。


5.実施設計

 
 ほとんどのマンションがコンクリート造であり、修繕・改良の実施設計は、主に一級建築士が行います。
主な作業は、1)施工の仕様を明確にすること、2)面積・数量から工事の概算費用を積算することです。
設計期間は、約半年で、その間、月1~2回の打ち合わせ会議を修繕専門委員会と開催します。
マンションの修繕工事は、住民の在宅中の工事という特徴があるため、専門委員会で説明があります。

実施設計の結果、約70ページの工事仕様書と説明用の図面が作成されます。
また、劣化診断の結果を参考に劣化の数量が「見積要項書(見積条件書)」としてまとめられます。
この資料をもとに、施工業者が見積り書を作成できます。

このように、実施設計の主な成果物は、仕様書、仕上表と数量表、解説の図面、見積要項書です。
仕様書の具体的な内容は、工事範囲、工法、要求性能、材料、メーカー、数量など、施工の仕様の定義です。
なお、積算による概算費用算出、各種の手続きも追加されます。
見積要項書は、工事完了後、工事費の増減精算でも使用されます。

この仕様に従い、施工業者が工事を進め、完了させます。
施工計画、施工検査の報告、各種の検査、管理組合の「承認」は、仕様書・添付図面に従い行われます。
したがって、修繕工事の出来不出来は、「仕様書」に左右されることになります。

 「仕様書」の目次は、主に次のとおりです。
   1)工事概要
   2)見積り要領
   3)一般事項
      ①工期、工事の進め方
      ②検査方法
      ③必要な施工図、承認図
      ④費用の支払方法
      ⑤性能保証について
      ⑥工事費の増減清算の仕方など
   4)共通仮設工事
   5)直接仮説工事
   6)下地補修工事
   7)シーリング工事
   8)塗装工事
   9)防水工事
  10)取替修繕工事
  11)その他性能向上に関する仕様
  12)専用部分(住居)の任意追加工事の仕様
    添付  参照図

6.施工業者選定

 
 工事内容が明確になった場合、施工業者に見積りを依頼する前に、住民への「説明会」を開きます。
工事費が高額となるので、今後の総会決議の準備となる「説明会」です。
工事費の額の相場は、主に次の内容から費用の妥当性を説明できます。
   1)(財)建設物価調査会の調査結果
   2)国土交通省の「長期修繕計画書と修繕積立金についてのガイドライン」

この「説明会」で反対する住民が現れる場合があります。
例えば、次の反対意見が出ることがあります。
1)お金をかけたくない、工事範囲を広げたくない。
2)玄関扉の取替えやメールボックスの取替えは必要ない、まだ使える。
3)床のタイル張りはすべるから反対。
4)廊下や階段の化粧シートは掃除が大変なので反対。
5)給水ポンプは、自宅の近くに置きたくない。

この反対意見に対して、主に次の対応が考えられます。
反対意見は、説明会の話し合いにより、納得させる必要があり、総会までに解決させます。
1)工事内容や費用は、マンションの維持・保全の観点から必要であり、その意味を説明します。
2)仕様の詳細は、見本を見ることや、近くのマンションに見学に行くことで理解できます。
3)設備の配置は、不安解消の処置があることを説明できます。

施工業者の選定は、管理組合にとって最も重要な作業となります。
修繕工事が成功するかどうかは、実施設計と同様、施工業者選びにかかっているためです。
 大規模修繕工事は、何千万円、何億円という非常に高額な費用がかかります。
大切なことは、適切な修繕・改修によりマンションを再生得る実施設計と施工業者の選択です。

 では、施工業者をどのように選ぶのでしょうか?
代表的な選定方法を説明しました。
1)入札方式
 入札希望者を公募または指名して競争入札を行う方法です。
原則として最低価格の会社との契約となります。

 2)見積り合わせ方式
 特定の数社を指名して、工事費と工事内容などについて提案してもらいます。
その結果の内容を検討し、最適と判断される施工業者を選定する方法です。

 3)随意契約方式
 特定の1社を指名して見積書を提出してもらい、その内容を検討・協議の上、選定する方法です。

次に、施工業者一覧の作成方法の主な種類を示しました。

1)公募
 インターネットや業界紙などで広く公募します。
時間がかかりますが、価格競争力のある業者が参加してくる可能性が高いと思われます。
したがって、原則としてこの方式が最良と思われます。

マンション管理士は、原則として、管理組合が工事業者を公募で選定できるように指導します。
この大規模修繕工事業界は、談合が多いといわれています。
したがって、公募により、公正・透明性を保ち、業者を選定することが大切と思われるからです。

 2)区分所有者の推薦
 区分所有者の中に業界関係者が居る場合や、周辺マンションの評判などから推薦をしてもらいます。
これは区分所有者の納得を得るためにも、取り入れるべき、といわれています。
ただし、透明性と公平性の観点から、問題が生じないよう、注意することも必要です。

 3)外部専門家からの紹介
 経験豊富なパートナーの意見は貴重で、効率的な方法です。
しかし、透明性の確保という観点から、これは避けるべきと思われます。

 4)マンション施工会社
 自ら建設したものであり、そのマンションの構造・仕様に最も精通していると考えられます。

 5)マンション管理会社の工事部門
 管理会社は、日常の保守点検業務、経常的小修繕工事等を通じてそのマンションを管理しています。
したがって、詳しくマンションの状態を知っていると考えられます。

施工業者の主な種類は、次のとおりです。

1)総合建設業者
 人材面、技術面など組織としての能力は高いと考えられます。
しかし、作業を下請け業者に任せるため、教育、監督能力、現場監督の力量が問われます。

 2)専門工事業者
 塗装や防水工事の専門業者を対象としています。
専門としている分野の工事についての技術力は高いと考えられます。
この専門業者は、修繕の目的や範囲によっては大変有効と思われます。

 3)マンション管理会社の工事部門
上記で既に説明した内容と重複します。
 日常の保守点検業務、経常的小修繕工事等を通じてそのマンションを継続的に管理しています。
したがって、この工事部門は、相応にそのマンションの状態を熟知していると考えられます。

では、具体的にどのような選考作業となるのでしょうか?

 先ず、一覧にした会社の情報を入手します。
情報は、会社概要、財務内容、経営状況、大規模修繕実績、他マンションの評判などがあります。
書類選考を行い、数社に絞り込みます。
評価方法は、マンション管理士など外部専門家の助言を受けるとよいと思われます。

 次に、書類選考に残った数社に見積もりを依頼します。
比較検討ができるよう、見積要領書・設計図書を渡すことで、同一条件のもとで見積りが可能になります。
依頼時には施工業者にマンションに来てもらい、現場説明会を行えば現場の理解も深められます。
また、その場で質疑応答などもできるので、効率的です。

 見積りが入手された時点で、仕様や数量が正しいか、項目に抜けがないかなどを確認します。
その後、3社程度に絞って最終的な選考として面接を実施します。

 選定基準は、競争原理を働かせる必要があります。
見積り金額だけでなく、工事監理体制やアフターサービス体制などもチェックすることが必要です。
 それ以外として、次の内容も確認し、総合的に判断します。
1)取り組み姿勢、2)現場代理人の資質、3)経営の健全性、
4)大規模修繕工事の施工実績


7.総会決議

 
 施工業者が仮内定した場合、工事実施の「総会」を開きます。
決議事項の内容により、普通決議、特別決議となります。
   1)共有部分の変更のない修繕は、普通決議です。
   2)階段の増設など、共有部分に改良などの重大な変更がある場合、特別決議です。
   3)修繕積立金の取り崩しは、普通決議です。

 すでに3回の「説明会」を開催しているため、強い反対などは、出ないと思われます。
この状況は、管理組合がこれまで充分に組合員と話し合い、事前に「交渉」してきた成果です。
なお、管理規約には、総会決議事項に差異があるので、必要に応じ「臨時総会」を開催し、決議します。

工事請負契約書
 管理組合は、工事が総会で承認された後、施工業者と「工事請負契約」を締結します。
なお、契約は、管理組合が不利益にならないよう、専門家に依頼し、十分確認する必要があります。


8.工事の説明会

 
 総会で工事が承認された場合、その工事業者による説明会を開きます。
大規模修繕工事は、住民が生活している最中に工事がおこなわれることが最大の特徴です。
工事の内容とスケジュールを住民に説明し、掲示板などにもスケジュールを掲示します。
住民の作業への協力なしにバルコニーや廊下・階段での工事が進まないからです。
管理会社は、このような業務の専門的知識をもっているので、協力をお願いできます。

 修繕工事説明会は、主に次のとおりです。

 大規模修繕工事の着工2~3週間前に、区分所有者や居住者に対して「修繕工事説明会」を開催します。
管理組合の主催です。
説明会で施工業者、工事監理者から以下のような重要ポイントについて説明をしてもらいます。

  1)施工スケジュール
    作業日程・時間・休日等の設定など
  2)仮設建物の設置場所
    現場事務所・トイレ・資材置き場等
  3)居住者へのお願い事項 (掲示板や広報により)
     ①バルコニー施工に伴う設置物移動、洗濯物関連、換気方法
     ②エレベータの使用制限
     ③断水、排水制限
     ④駐車施設の車移動(足場を組むため駐車が出来ない場合等)
     ⑤その他通行禁止、立入禁止、使用禁止事項
  4)安全対策・防犯対策
  5)連絡方法・苦情窓口

9.工事

 
 一般的に設計事務所の監理により工事が進みます。
工事中は、適切な情報交換を行うとともに、関係者の十分なコミュニケーションが大切です。
定例会議を開き、工事進捗のチェック、居住者からのクレーム等の確認、設計変更の協議などを行います。

施工者検査、監理者検査、管理組合検査という順に進みます。
  1)施工業者の社内検査、2)監理者の確認と検査、3)管理組合の承認というサイクルです。
基本的に、材料・メーカーの受入検査などが行われ、実施設計どおり施工されているのか検査されます。
管理組合は、色彩や塗装の仕上がりなどを目視で確認し、問題がなければ「承認」します。
塗装の仕上がりは、5m程度離れて見て、女性の肌のように滑らかに見えるのが良い、と言われています。

工事施工が最終段階を迎えた時点で、竣工検査を行います。
管理組合による検査が足場解体の前に行われます。
その際、不具合が発見された場合には、施工業者に伝え、直ちに修正をしてもらいます。

既に説明しましたように、(財)建設物価調査会の平成20年調査で、工事期間は約8割が2~5ヶ月でした。

10.引渡し

 
 工事費の増減清算を確認します。
 工事終了・管理組合の立会い検査後に、竣工図書(工事完了引渡し書など)を受け取ります。
この書類は、次回の大規模修繕で活用できるため、保管すべきです。
アフターサービスに対する説明と書類を確認します。

竣工図書は、主に次のとおりです。
1)工事完了届
2)工事費内訳書・工事費清算書
3)工事保証書
4)材料一覧・カタログ
5)色彩計画書・施工計画書
7)下地補修図・数量表、調査図・下地補修施工図・各種施工図
8)計画工程表・実施工程表
9)検査記録・完了確認書
10)工事記録写真
11) その他

11.アフター点検

 
 保障期間にアフター点検を行い、特に、期間が終わりに近い項目を点検します。
点検し、不具合があれば、保証内容に従い、補修工事の是正を申しでます。
共用部分、バルコニーなど専用使用部分を管理組合、監理者、施工者、および住民が目視点検します。
この共同点検は、マンションの維持・保全に関心を持つ良い機会となります。

  なお、専門委員会は、原則として理事会の決議により解散します。

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※国土交通省のガイドラインより引用
機械式駐車場は、別会計としました。
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