マンションの長期修繕計画
マンション管理士事務所 柳澤オフィス |
1.はじめに
長期修繕計画作成の目的は、修繕積立金を見積ることです。 マンション住まいの方、及び管理組合の役員さんが修繕費用を見積るとき役立ちます。 この計画をグラフで作成すると、修繕積立金が不足しないことを簡単に確認できるからです。
次の図は、国土交通省のガイドラインに基づき作成した30年間の「収支計画グラフ」です。 ガイドラインとは、平成20年「長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」を指しています。 以降の説明は、このガイドラインに従っていますので、予め了承願います。 ガイドラインの詳細は、国土交通省のホームページを参照ねがいます。
なお、価格データとして、(財)建設物価調査会 総合研究所の価格を参考にしました。 ※ グラフをクリックすると拡大します。
|
2.マンションの長期修繕計画
マンションの長期修繕計画で最も重要なポイントは、次の3つです。
(1) 部位・工事 (屋根、床、外壁、設備など修繕計画に係る部位・工事) (2) 延べ床単価 (円/延べ床㎡、または円/戸) (3) 周期 (計画修繕周期・部位の耐用年数による「修繕周期」)
上記のグラフで(1)が表の左端に、(2)がグラフの縦軸に、(3)がグラフの横軸になります。
長期修繕計画の内容を上記のポイントに注目し、具体的内容を説明しました。
(1)部位・工事の一覧
次の(周期 年)の( )内最初の値は、「国土交通省マンション管理標準指針」を引用しました。
項目名( 例 ) (周期 年) 1)屋根防水 (屋根の葺き替え、防水) (12, 12~18) 2)外壁等 (躯体、タイル、塗装、シーリング) (12, 12~18) 3)床防水等 (開放廊下・階段、バルコニーの床) (12, 12~18) 4)鉄部等 (手すり、扉、鉄骨階段) (4, 4~6) 5)建具・金物等 (玄関扉、窓サッシ、郵便受け) (30, 24~36) 6)共用内部等 (管理員室、エントランスホールの内装) (15, 12~18) 7)給水設備 (給水管、受水槽、給水ポンプなど) (20, 18~24) 8)排水設備 (雑排水管、雨水管、汚水管、枡) (20, 18~24) 9)ガス設備等 (ガス管) (30, 12~36) 10)空調・換気設備等 (換気扇、ダクト) (30, 12~36) 11)電気設備等 (電灯、電気幹線、避雷針) (30, 24~32) 12)情報・通信設備等(電話、テレビ共聴、インターネット設備) (30, 12~32) 13)消防設備 (自動火災報知機、消火栓、連結送水管) (20, 18~24) 14)昇降機設備 (駆動装置、かご) (30, 24~32) 15)立体駐車場設備 (自走式・機械式構造体と駆動装置) (5, 5~10) 16)外構・付属設備(フェンス、駐車場、自転車置き場、ゴミ置場)(24, 24~36) 17)診断・設計・監理費用 (調査・診断、設計、工事監理の費用) (10, 10~12) 18)長期修繕計画作成費 (作成、見直し) (5, 5~10)
なお、「仮設工事」が修繕費用に加わります。 したがって、上記の項目に1加わり 18+1=19項目について計画します。
(2)延べ床単価 (円/延べ床㎡、または、円/戸)
この価格データとして、(財)建設物価調査会 総合研究所のデータが大変参考になりました。 「マンション改修工事費のマクロ的価格傾向に関する研究(平成20年調査)」です。
(3)「周期」、計画期間は、30年、25年など
部位の周期データは、(財)建設物価調査会 総合研究所のデータを参照しました。 「マンション改修工事費のマクロ的価格傾向に関する研究(平成20年調査)」です。
なぜ、計画期間が新築の場合30年、既存マンションの場合、25年なのでしょうか? 主な理由は、約12年の周期の大規模修繕が2回含まれる期間のため、といわれています。 実際、前半に示した「収支計画グラフ」を見ると、修繕積立金の額と比較しやすい、と思われます。 仮に期間を12年前後とした場合、その期間に修繕工事がまったくない計画表が作成されるからです。
(4)「長期修繕計画」の作成目的
計画を作成する目的は、前半の説明のとおり、主に「修繕積立金の額」を求めることです。 修繕積立金が修繕費用の範囲内にあれば、建物を維持・保全することができます。 収支計画グラフを描くと、簡単に修繕積立金の額をチェックすることができます。 次の図の赤いライン が修繕積立金の累計で、黄色 が工事費用の累計です。 この図の場合、修繕積立金が不足しないことが分かります。 同じことが、前半に示した収支計画グラフで確認できます。
(5)長期修繕計画の見直しと作成費用
計画の見直し(変更)は、約5年ごとに行われ、費用は、約10~15万円でした。 ただし、計画の見直しの前提となる「劣化診断」には、約1万円/1戸の費用がかかります。
見直しは、主に、劣化状態と修繕積立金の2つを確認するために行われます。 上記の国土交通省のガイドラインより、劣化診断は、約5年の周期で実施することになっています。 長期修繕計画の作成・変更は、マンションの「総会」で決議します。 修繕工事を前提とする場合、約1万円/1戸の費用を修繕積立金から取り崩すからです。
標準規約に従っている場合、その第48条5項に「総会の決議事項」として決められています。 ガイドラインより、計画の見直し時期は、大規模修繕計画の年の前後、又は、その中間の時期です。
大規模修繕工事に先立ち「劣化診断」が行われます。 詳細の劣化診断を行うと、工事内容や工事範囲を適切に決定できます。 屋上防水工事などは、「全面撤去」する必要が無い場合、部分撤去、または被せで十分です。 したがって、大規模修繕を実施する前後・中間時期に見直しが行われ、計画を変更します。
また、修繕時期の中間の時点の劣化診断は、劣化の早期発見となり、改修費用を節約できます。 例えば、外部鉄骨階段のサビを5年目に補修すると、サビによる鉄部の浸食を抑えることが可能です。 しかし、劣化は、経年により生じるため、部位を集約し、できれば工事を先送りしないことが賢明です。 一般的に、「事後保全」は、工事費用が高くなる傾向があるからです。 なお、「劣化診断」の結果を長期修繕計画の見直しに流用すると、診断費用を節約できます。
|
3.ガイドラインについて
(1)国土交通省が「ガイドライン」を発表しました。
前半から説明しているこのガイドラインは、平成20年6月、国土交通省から発表されました。 また、平成23年4月、国土交通省から「マンションの積立金の額に関するガイドライン」発表されました。 首都圏では、住宅取得者の半数以上がマンションを選択する程、マンションの重要性が増してきたからです。
平成20年6月のガイドラインの主な目的は、「標準様式」の作成・使用方法を解説することです。
しかし、素人集団のマンションには、次のような課題があります。 ガイドラインから要点を引用しました。
1)共同生活に対する意識の相違 2)多様な価値観を持った区分所有者間の意思決定の難しさ 3)利用形態の混在による権利・利用関係の複雑さ 4)建物構造上の技術判断の難しさ
柱・屋根・廊下やエレベーターを共有するため、住民の間に「騒音」などのトラブルが発生しています。 このような課題を克服するため、次の主な対策があります。
1)共同生活に対する意識の相違に対し、コミュニケーションの円滑化のため「アンケート」を実施 2)多様な価値観を持った区分所有者間の合意形成を専門家に依頼 ◎ ガイドラインの「標準様式」は、「総会」の資料として非常に役立ちます。 「広報」「説明会」を繰り返し行い、「総会」の決議をスムーズにさせることがポイントです。
3)利用形態の混在による権利・利用関係の複雑には、区分所有法の理解と活用による「法的解決」 4)建物構造上の技術判断の難しさには、専門家の活用(「建築士」「マンション管理士」など)
===> 参考として「長期修繕計画ソフト」記事を参照願います。
(2)標準様式は、次のとおりです。
1) (様式第1号) マンションの建物・設備の概要 2) (様式第2号) 調査・診断の概要 3) (様式第3-1号) 長期修繕計画の作成・積立金の額の設定の考え方 (様式第3-2号) 推定修繕工事項目、修繕周期等の設定内容 4) (様式第4-1号) 長期修繕計画総括表 (様式第4-2号) 収支計画グラフ (様式第4-3号) 長期修繕計画表 (推定修繕工事項目 推定条件) (様式第4-4号) 推定修繕工事費内訳書) 5) (様式第5号) 積立金の額の設定
ガイドラインの詳細は、国土交通省のホームページを参照ねがいます。
|
|
|
|